▶ 2016年4月号 目次
3月2日 ミニゼミリポート 「報道と政治圧力」~高市発言等を軸に~
橋口徳愼
2016年3月2日、「報道と政治圧力」をテーマにしたミニゼミが、慶應義塾大学三田キャンパスで開かれた。高市総務大臣の発言を契機として、「政治権力からのマスコミへの圧力」を中心に研究所の担当教授と現役学生が、研究所卒業生であるジャーナリストの方々と活発な議論を交わした。
冒頭で、学生による事前に準備されたレポートの発表があり、「政治権力のメディアへの圧力」について、直近の高市発言を軸に3つの事例(「高市発言」・「椿事件」・「TBS成田事件」)に基づいた考察が発表され、それを踏まえた議論が展開された。
まず初めに「放送法に対する現政府の解釈の是非とメディアへの介入」について発表者が問題提起した。政治的な公平性を欠く放送に対し、放送法を根拠とした電波停止の可能性について触れた高市総務大臣の発言に対する議論であった。発表者から、政府が独自の見解に基づいて介入の姿勢を高める可能性、そして、その姿勢がエスカレートしつつある傾向が見られる点について問題提起された。これに対して、記者の方から、そもそも放送法は時の政府からの介入を防ぐもの、また放送各社が自らを律するための努力目標であると現場は解釈しているとの説明があった。圧力をかける姿勢がエスカレートしていることに関しては、圧力をかけることにより放送事業者に自主規制させることこそが政府の狙いであることは、いつの時代でも同じだとした。一方でここ近年(高市発言をはじめ)政府が放送規制について露骨に口に出すようになったのは、放送事業者の力が弱っており、政府に甘くみられているという状況があると指摘した。
次に、学生から出た「一連の政府からの圧力を受けて現場は委縮するのか」という質問に対しては、記者の方から政府が一方的に放送法違反ということはあっても、現場では委縮するということはありえないという見解が示された。一方で、政府が免許制度を盾にとって、メディアの経営者に圧力をかけ、反政府的論調の記者を異動させたと見られる過去の事例も紹介された。さらに記者側からは、以前のジャーナリストは、安保闘争時の7社共同宣言や佐藤栄作元首相の退任会見での記者側の一斉退出のように権力に対抗するための「共同意識」があったが、現在は弱くなってきているのではないかという指摘があった。
最後に、上記の議論を踏まえたうえで、さらなる問題提起を行う。今回のテーマである「報道と政治圧力」の問題を考える際に、最も重視しなければならないことは、現政権がメディアへの圧力を強めており、それに対してメディア側が大きく影響を受けていると見られる現状である。
政権がメディアへ圧力をかけるという状況は「椿事件」や「TBS成田事件」にもみられるように、過去にも発生していた。では、なぜ現在の状況がとりわけ不安視されるのであろうか。それは、記者側からの指摘にもあったが、メディアが権力側からの圧力を跳ね返す力が弱くなっているからであると考える。その一因として、朝日新聞社の起こした原発問題の吉田証言の問題などで、特に政権に批判的なジャーナリズムの論調が弱まっている。そこに政権つけ込んで圧力を加えているようにみえる。もう一度信用を取り戻すには、ジャーナリズムがより粘り強く活動するべきではないか。
文責 橋口徳愼(慶應義塾大学 文学部二年)