▶ 2016年5月号 目次

「爆買いの聖地」の地価上昇

七尾隆太


 大阪市中央区心斎橋筋2丁目8番5号――。大阪・ミナミの心斎橋筋商店街の、この一角がにわかに話題を集め出した。国土交通省が3月末に発表した公示地価(1月1日時点)で、商業地では心斎橋筋の「旧ヤマハ心斎橋」の上昇率が全国トップの45.1%となったからだ。都道府県別でみても、大阪府が前年比4.2%の伸び率でトップ。背景には何といっても、この2、3年のインバウンド(訪日外国人)の増加、中でも中国人の来阪者の急増がある。こうした動きに伴って、ホテルや「爆買い」に対応する物販店などの建設計画も急増した。「地盤沈下」が代名詞だった大阪・関西の街に最近、大いに活気が感じられ出した。
 久しぶりに訪れた心斎橋筋商店街は通行人であふれていた。「ごった返す」とはこんな場面を表現するのだろう。大きな買い物袋を抱えた人、スーツケースを引きながら歩く人、首からカメラをぶら下げた人、旗を掲げた女性の後から歩く一団――。おそらく、半数ぐらいは中国人ではないだろうか。聞こえて来る話し声は、ほとんどが中国語だ。どのドラッグストアも、外国人の買い物客であふれている。拡声機を片手に、中国語で客寄せする飲食店もある。大通りに出ると、大型観光バスが何台も並んでいた。
 地価公示の中で、商業地の上昇率の全国トップ10のうち6地点を大阪市内が占めた。そのうちの4地点は、心斎橋筋はじめ道頓堀、宗右衛門町、難波などミナミだった。「周辺はホテルの建設ラッシュだ」と朝日新聞は報じている(3月23日大阪本社版)。この記事の中で「ビジネスホテルでも1泊3万円近くするのは珍しくない」との地元町会長の話を紹介している。大阪市内のホテル不足は慢性化の状況になっている。
 大阪観光局の集計では、2015年に大阪府を訪れた外国人旅行者数は716万4000人。前年の2倍近い急増ぶりで、伸び率は全国の47.1%を大幅に上回っている。国・地域別では、中国が最も多く、前年の約2.7倍の271万6000人。次いで韓国が50%増の108万人で、台湾、香港とアジア勢が続く。このアジア4カ国・地域で全体の75%を占めている。