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「言論の自由を考える」-5・3集会から-

七尾隆太


 憲法記念日の5月3日、神戸市内で開かれた「言論の自由を考える5・3集会」(朝日新聞労働組合主催)に参加した。29年前のこの日、兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局で記者2人が殺傷された「朝日新聞襲撃事件」(概要を後述する)の翌年から、「事件を忘れず、市民と一緒に言論への暴力に立ち向かおう」(配布資料)と毎年開かれている。約500人が集まった。私はできるだけ出向くようにしている。
 今回のテーマは「デモ×若者 社会は変わるのか」。昨年夏の安全保障関連法案の反対デモには多くの若者が参加したが、この動きは一時的な熱気に過ぎなかったのか、社会を変えるきっかけになったのか、を考えるのがねらいだった。パネリストとして、「SEALDs」メンバー、千葉泰真氏(明治大大学院生)と香山リカ(精神科医、立教大教授)、五野井郁夫(政治学者、高千穂大教授)、佐藤卓己(京大大学院教授)の各氏が登壇、ジャーナリスト津田大介氏が司会を務めた。
 「SEALDs」(自由と民主主義のための学生緊急行動)は、安保関連法などに反対する学生団体で、昨夏はほぼ毎週末、国会前のデモを主催、ラップ調の抗議を連呼するなどして若い世代の共感を呼んだ。(「SEALDs」が生まれた経緯、基本的な考えに関しては『民主主義ってなんだ?』〈河出書房新社)が参考になる)。
 千葉氏は活動を振り返り、「デモ参加者より、行かない学生の方が多いが、政治について考え、発言する学生が増えた。安保関連法は成立してしまったが、負けたとは思っていない、終わったわけではない」と述べた。五野井氏は「仕事帰りの人や子連れの女性ら普通の人たちがデモに参加するようになった」「若い人たちがけん引者となりメディアに訴え、政治参加を促したことは大きい」と評価、自身も抗議デモに参加したという香山氏は「萎縮している中でデモに行くと孤独ではない、と感じた。デモに参加すると、従来は奇異な目で見られたが、SEALDsの活動で敷居が低くなった」。こうした発言に対して、佐藤氏は「デモなど祝祭だけでは政治は変わらない、日常的な対話が重要だ」と延べ、マスメディアに対して、態度を決めかねている中間層に対する訴えかけ、情報が不足している、と指摘した。
 「SEALDs」の活動の広がりには「ソーシャルメディアの『動員力』が大きな役割を果たした」(津田氏)。しかし、「ネットでつながると、同じ意見の人と接触することが増え、考え方が極端になっていく」(香山)、「2極化を推進するメディア」(佐藤)と注意を促した。