▶ 2016年7月号 目次

<ジャーナリストをめざす若い人へ>
取材競争とは何のため? ~パナマ文書をめぐって~

陸井 叡


先月(6月)9日、東京・港区内幸町の日本記者クラブでいつもは取材する側の2人の記者が多くのマスコミ関係者から質問を受けていた。会見したのは朝日新聞社特別報道部の奥山俊広、共同通信社特別報道室の澤康見の両氏。テーマは「パナマ文書」についてだった。朝日新聞社と共同通信社は既に今年4月4日の世界的な報道解禁日に合わせて「パナマ文書」が明らかにした日本関係者の一端を報道していた。今回の2人の会見は、その経緯を説明するものだった。
今年1月23日、文書を南ドイツ新聞経由で入手した国際的な非営利調査報道組織ICIJから、まず、奥山氏に協力依頼があり、その後、澤記者が参加したことを二人が明らかにした。「ライバルの朝日新聞記者と協力して取材するという、信じられないような要請だった」と澤記者は率直に当時の困惑を語った。そして、ロシアのプーチン大統領側近のタックスヘイブンとの関わりを取材するロシア国内の記者とは複雑な暗号を介してメールで情報交換が行われている事も明らかにした。記者の安全を守るためだという。
アメリカのお膝元、小さな国 パナマ。これといった産業はない。だが、極端に安い税制のメリットを求めて世界中の企業や富裕層がここに拠点(現地法人)を置く。本国で払うべき税の節税、そして脱税、更に資金の洗浄(マネーロンダリング)に使う。パナマ政府は、原則、知らぬ存ぜぬ、だ。こうした拠点を管理する法律事務所の一つから流出した内部文書、それが、「パナマ文書」だ。
世界200カ国21万社の企業の銀行口座情報など、1970年から最近まで40年間の文書、電子メール1150万点がリークされた。電子データの量は2.6テラバイトになるという。文書を受取ったICIJの分析の結果によると50カ国の政府首脳ないしはその関係者ら著名人140人の情報が含まれているという。