▶ 2016年7月号 目次

第一回山の日によせて  人はなぜ、山に登るのだろうか

木村良一


 今年の8月11日は第1回目の「山の日」である。7月の第3月曜日の「海の日」と同様、自然に親しむための祝日にしたい。8月の祝日は初めてで、これで祝日のない月は6月だけとなる。年間の祝日は16日に増えた。
 ところで日本の登山人口は1000万人を超すといわれる。中高年だけではなく、登山は若い女性の間でも大きなブームとなり、数年前には山ガールという言葉まで生まれた。人はなぜ、山に登るのだろうか。来月の山の日を前に考えてみた。
 実は仕事で山の日を記念するイベントを企画し、6月2日の夜、約200人を集めて東京都千代田区内のホールで「登山の安全と健康」のためのシンポジウム(産経新聞社主催、日本山岳協会後援)を開催した=写真。後半のパネルディスカッションでは進行役も務めた。
 パネリストには、ツアー会社を運営する山岳ガイドの太田昭彦さん、80歳でエベレストに登った三浦雄一郎さんの主治医で国際山岳医の大城和恵さん、雄一郎さんの次男でプロスキーヤーの三浦豪太さんの3人に登壇してもらい、中高年が安全に登山を楽しむ方法やその医学的見解について意見を交換し合った。3人ともヒマラヤなどを何回も経験している登山のベテランである。
 パネルディスカッションの最後。私は「なぜ、山に登るのか」と少々意地の悪い質問を3人にぶつけた。
 太田さんは「山に行くと元気なる。緑や紅葉、真っ白な雪を見ているだけで幸せな気分になれる」と話し、大城さんは「私はアンコが好きですが、なぜ、好きかといわれても好きなものは好きとしかいいようがない。それと同じ」と語っていた。三浦さんは「父親に連れられて気が付いたら山が好きになっていた。山は自分より大きな存在で、そこにひかれる」という答えだった。
 3人の答えはそれぞれ違うが、共通点もある。それでは登山歴7年という私にとっての山とは何なのか。奥多摩や丹沢の低山でも登って夕方、自宅に帰ってくると、体が楽になるし、登りながらいろんなことをじっくり考えることもできる。鳥のさえずりや沢のせせらぎを聞きながら、草や土の匂いをかぎながら、一歩一歩登るのは肉体的には苦しい面もあるが、精神的にかなり楽になる。