▶ 2016年8月号 目次
点描リポート・中国内陸部を旅して
山形 良樹
7月9日から16日までNHK時代の同僚4人と中国内陸部の西安、鄭州、安陽、洛陽の日本で言えば京都や奈良のような古都を旅した。兵馬俑博物館と殷墟遺跡、龍門石窟の3つの世界文化遺産を観るのが主な目的だった。日本の旅行会社に頼んで現地で中国人のガイドと運転手を用意してもらった。ここに書く事は、私が旅先で見たり聴いたりしたことが中心で公的な裏付けがないことを断っておく。
さて、成田空港からの中国南西航空の鄭州行きは、我々以外に日本人の姿はなく、いわゆる爆買いしてきたと思われる中国人で満席だった。
まずは到着した鄭州新空港の大きさに驚いた。成田空港が一地方空港にしか見えないような大規模施設だった。このあとも高速鉄道の駅舎や博物館、市庁舎等を見るに付けそのバカデカさに呆れかえるばかりだった。
到着翌日鄭州東駅から安陽東駅まで高速鉄道・中国版新幹線に乗ったのだが、セキュリティーが厳しかった。チケットには、私のパスポート番号と名前が記されていて本人以外は使用不可だ。駅舎そのものに入るために、パスポートの提示、X線による荷物検査とボディチェックを受けた。これだと見送りの人とは、駅舎の外でお別れとなる。中国版新幹線は、外観も内部の構造も日本の新幹線とよく似ていた。1等、2等席の他、商務席と呼ばれる特別席がある。今回の旅行では3回高速鉄道に乗ってすべての席を体験した。ざっくり言えば、1等と2等席では日本の普通車とグリーン車ほどの差はなく、客層もいずれも親子連れが多くて変わらなかったが、特別席は実に豪華だった。西安北駅から洛陽龍門駅までの約1時間半の旅では、先頭車両の特別席に座ったのだが1車両に5席しかなく我々5人で独占できた。革張りのシートを倒せば、飛行機のビジネスクラスの様にほぼ水平に寝ることができる。飲み物とスナックも無料サービス。乗り心地は日本の新幹線と変わらなかったが、ブレーキの効きが悪いのか、到着駅のかなり手前で減速するのが少し気になった。いずれにして中国版新幹線は、日本の新幹線の強力なライバルであると実感した。
話が変わって、行く先々で目に付いたのが、売れ残りの空き家マンション群だった。骨組みだけ残されたものや工事を途中で止めて廃墟同然になったものまであった。ガイドから入居者がいるかどうかは、エアコンの室外機が取り付けてあるかを見れば分かると教わった。中国では、個人の土地所有権は認められていない。70年限定の使用権があるだけだ。日本で言う一戸建ては別荘を指し、都市部住民の住居は必然的にマンションとなる。
中国の都市部では独身男性が結婚するためには、マンションと車を揃えることが条件になっている。マンションの頭金は親が出し、残りを息子がローンを組んで支払うのが一般的だそうだ。旺盛な需要に投資目的も加わって地方でもマンションが次々に建てられた結果、今では供給過剰に陥っている。
ニュースサイト大紀元日本が伝えるところによると、「中国国家統計局が今年1月に発表した最新のデータでは2015年国内で売れ残った分譲住宅床面積(空き家)は、14年末と比べて9484万㎡増の7億1800万㎡と過去最高水準となった。中国当局は、去年、利下げ6回、預金準備率の引き下げ5回の実施などの刺激策と住宅販売優遇政策で、過剰供給による住宅の在庫削減を図ってきたが、経済鈍化による需要低迷が主因で、住宅の在庫減少どころか逆に増えている事実が浮き彫りになった。国民一人当たりの住宅面積を統計基準の35㎡とすると、売れ残った住宅は約2千万人分となる。」という。
中国通の評論家宮崎正弘氏は「中国は以前から日本の不動産崩壊のプロセスを調べ上げ、二の舞を演じないようにと数々の予防策を展開してきたが、延命させればさせるほどに、崩壊がくると歴史始まって以来の暴落を演じることになるだろう。」と警告している。
ところで、世界文化遺産の遺跡周辺では農民の“立ち退き成金”が続出している。以前は政府による土地収用と言えば二束三文で放り出されるケースが多かったと聞くが、最近は違うようだ。洛陽市郊外の河畔にある仏教建築「龍門石窟」は2000年世界文化遺産に登録され、周囲数キロにわたって中国政府が農地を収用した。補償金が日本円にして1億数千万円にもなった農民もいて、5階建ての自宅を新築したそうだ。土地収用に応じた農民たちは、雇用も確保された。私たちが石窟観光で乗った電気自動車の運転手も元農家の主婦だった。まさに良いこと尽くめ、ガイドが羨ましがるのも当然だ。中国は知れば知るほど奥深い国だった。
山形良樹(元NHK記者)