▶ 2016年9月号 目次

ハイブリッド肺移植 生体移植の苛酷さ自覚したい

木村良一


 今回は生命倫理の絡んだ移植医療の問題について論じたい。
 今年7月17日、岡山大病院が世界2例目の「ハイブリッド肺移植」の手術に成功した、と発表した。ハイブリッドとは「混成物」の意味で、ハイブリッド肺移植は脳死したドナー(臓器提供者)と健康な生体ドナーの双方から肺の提供を受け、同時に患者に移植する手術である。昨年4月に岡山大病院が世界で初めて成功した。
 脳死ドナーの肺は呼吸機能の低下から移植に適さないことが多い。その点、生体ドナーの肺で機能を補うハイブリッド肺移植は脳死ドナーの肺を無駄にせず、ドナー不足の解消につながる。その一方で健康体を傷付けなければならないという生体移植の根本的な大きな問題点は残る。このハイブリッド肺移植を生命倫理上どう考え、今後どう扱っていったらいいのだろうか。
 世界2例目のハイブリッド肺移植は、20人の医療チームによって17日午前8時35分から岡山大病院で始められ、午後5時45分に終了した。ざっと9時間以上かかった計算になる。医療チームの人数の多さと長い手術時間を見ても手術の難しさが分かる。
 移植手術を受けた患者は60歳代の男性だった。4年前に肺胞の壁が炎症を起こして硬くなり、酸素と二酸化炭素の交換ができなくなる特発性間質肺炎と診断された。昨年7月、日本臓器移植ネットワークに登録して脳死ドナーが現れるのを待っていた。手術の成功で10月には退院できるという。
 患者は脳死ドナーから右肺の提供を受け、さらに息子の左肺の一部(下葉)も移植した。同じ脳死ドナーから左肺の提供を受けた京大学病院はこの肺が十分に機能していなかったことから移植手術自体を断念している。
 患者の息子の左肺の下葉を摘出しなければ、ハイブリッド肺移植の手術は成り立たなかった。指摘したい問題点はそこにある。
 昨年4月4日に岡山大病院で行われた世界初のハイブリッド肺移植の手術も同じである。患者は59歳の男性だった。脳死したドナーからは左肺の提供を受けたが、岡山大病院ではこの左肺だけでは十分に呼吸できないと判断し、生体ドナーから右肺の下葉を摘出して移植、肺の機能をサポートさせた。生体ドナーは患者の息子だった。
 2つのハイブリッド肺移植を担当した移植医はそれぞれの手術後、次のようなコメントを発表している。