▶ 2016年9月号 目次
インバウンド異変
三田村 達夫
「インバウンド」「訪日外国人」「爆買い」・・・ちょっと前まで、これらの言葉は新聞紙上を賑わせ、テレビでも本当に数多くそして多くの時間報道されていました。
しかし、最近「あれ?」と思うくらい聞かなくなりました。いったいどうなったのでしょうか?世界動向とも絡めて、いろいろな意見が出ているようですが、ここではデータ分析だけではなく、冷ややかな目で「インバウンド」を見つめてみました。
① 確かにすごかった訪日外国人
毎日のように「今日も観光地は海外からのお客様でいっぱいです!」と報道され、多くの外国人がインタビューに答えたり、日本の名所を写真に撮ったりする姿が映し出されました。
銀座や秋葉原では、いたるところに大型バスが駐車し、添乗員が買い物ツアーに案内したり、持ちきれないほどの買い物をしたりする観光客の姿も報道されました。
大阪や京都ではあまりにも外国人の宿泊客が多いため、日本人が平日に出張などで予約しようとしても、満室の施設が続出し、いい加減にしてほしいとの声も聞こえていました。
データでみると訪日外国人数対前年伸び率は、2013年が24%増、2014年が29%増だったのですが、2015年一気に47%増となり、2016年1月は52%増、2月が36%増、3月が31%増と確かに大きく伸びてきました。
② あれ?なんか変だぞ=動きが鈍った?
これだけ毎日のように見聞きしていた「インバウンド」に関する記事ですが、なんとなく最近少なくなったと思いませんか?特に「爆買い」という言葉はあまり聞かなくなりました。訪日外国人数が前年と比べて減っているわけではありませんが、消費に関する勢いが落ちています。百貨店の売上高や宿泊者数も伸び率が鈍っています。
銀座や秋葉原でもあれだけたくさんのバスが駐車していたのに、最近では見かける台数が減ってきていますし、免税店なども以前に比べると混雑が緩和されています。宿泊施設については、単価の安いホテルや旅館は今まで通り混雑していますが、多少高めの施設は予約がしやすくなっています。
このような状況から、これは困った状況だ、何とかしなければ、といった風潮が見られますが、よく考えてみると、今までが異常だっただけで、今まで通りもとに戻りつつあるだけなのではないでしょうか?そもそも平日の宿泊施設がいつも満室という状況が異常ですし、観光地が平日含め常ににぎわっている状況もあまりありませんでした。
つまり動きは、「対前年同月伸び率がピーク時に比べて鈍った」だけであって、人員については順調に推移し、2016年7月には単月の過去最多を更新しているのです。
③ 読み違えたどうしよう。しばらくインバウンド景気は続くと思ったのに・・・
ピーク時の状況がいつまで続くのか?これは誰にもわかりません。ある程度の読みが必要です。今回も「きっと続く」と判断して、新しくバスを何台も注文したバス会社、店舗を新規に出店したり店内を改装したりした百貨店、部屋などを外国人向けにリニューアルし、更に部屋数を増やした宿泊施設、訪日外国人案内のために急遽人を雇った観光施設、等これはチャンスと一気に投資をした企業も多くあります。
しかし、注文したバスはまだ納車されずいつの間にかピークを過ぎてしまった、百貨店の売上も予想を大きく下回り、人を雇ったが仕事が無いといった状況も生まれてきています。それもそのはずで、2016年4月の伸び率は18%、5月の伸び率は15%だったのです。しかし一方で、しっかりと状況を分析し、最低限の投資で引き続き売り上げを伸ばしている施設もあります。
④ これからインバウンドはどうなるのか?
このように「インバウンド」市場が鈍ったと思われているのは、あくまであの「爆買い」に象徴される「狂騒」時に比べたらということであって、今後の見通しも訪日外国人数は増えると予想されています。今でも訪日外国人数は前年に比べて増えています。2016年6月の伸び率は24%、7月の伸び率は20%と以前の姿に戻りつつあります。ただ間違いなく消費行動やスタイルは変わってきています。だから鈍ったように見えますが、普通の状態に戻り、併せて消費動向が変化をしたとみるべきでしょう。
日本人がかつての団体旅行から個人旅行中心に変わったように、多様な価値観を持つ消費者をどのように取り込んでいくのか?を考える必要があると思います。同時に移動手段や宿泊施設の問題は、真剣に考えないと、単に「人が増えるから箱も増やす」といった発想では、対応ができないでしょう。
「インバウンド」「訪日外国人」という単なる言葉に惑わされず、世界経済の動きも気にしながら、どのような消費行動になるのか、一旦冷ややかな目で見つめ直してみてはいかがでしょうか?
三田村 達夫(旅行アナリスト)