▶ 2016年10月号 目次
地震は予知出来る ~発生前1週間への挑戦~ 下
早川正士
4.地震予知は可能か
実は2010年前後には、地震前兆現象のうち地震との統計的因果関係が確立しているものが報告され始めた。一番はっきりしているのは電離層の乱れで、上空の電離層が地震の前兆として最も敏感であることは特筆すべきことだ。人工的VLF電波による電離層(下部)の乱れが10年程度の観測データに基づいて地震(とりわけ、マグニチュード5以上の、浅い)との統計的因果関係があることを私たちは発表している。電離層の上部(F層、高度300キロメートル)の乱れについても、台湾のグループが10年程度のデータに基づいて両者の因果関係を検証している。これらの因果関係の確立は実用的短期予知に大きく前進するのだ。勿論、どうして地圏での効果が上層大気まで影響するかという地圏・大気圏・電離層結合という科学的メカニズムは充分には解明されていないが、この原因は前に述べた地下でのひび割れに関係していることは間違いないことだ。
5.最近の社会的変化
私は1995年の神戸地震以来短期予知の重要性を訴える講演を続け、とりわけ2011年東日本大震災以降も、もの凄い数の講演会やテレビ出演も含めたいろいろなメディアを通して啓発活動を続けている。地震予知の重要性への理解が社会一般にここ1~2年で著しく浸透してきたと感じている。
地震予知学という学問の世界的な飛躍的進展も踏まえ、また2013年の国の「地震予知不可能」宣言を考慮し、2014年に一般社団法人「日本地震予知学会」を設立した。この学会では、先行現象(前兆)を集中的に学術的に議論する場として仲間とともに設立した。驚いたことに、法人会員として16社にも及ぶ会社に応援していただき、民間からの期待の高さを感じている次第だ。
更に、地震予知への民間会社の参入については、私事をお話しすることが良いかと思う。私は定年後の2010年に最初の地震予測情報を配信する民間会社「地震解析ラボ」を設立した。同ラボを辞し、2016年(株)早川地震電磁気研究所が主体となって更に進化した地震予知事業を再度立ち上げた(ウェブサイト「予知するアンテナ」)。このような民間会社に対して一部批判がある事は重々承知しているが、この設立理由は明確である。国は予知は出来ないとの立場で、国からの予知研究の予算獲得が期待できないため、国民の皆さんからのご支援をいただくしかなく、これにより学問の継続も可能になるのだ。更に複数の民間会社がこの分野に参入してきたことは望ましい方向だと思う。地震予知は、本来社会と密着した実学なので、科学者と連携した民間活動は当然考えられるべき事で、歓迎すべきだと考える。
6.地震予知学の将来
以下には地震予知について提言をしたい。
(1) 私は前述したように民間第一号となるベンチャーを設立し配信事業を行ってきたが、その限界を強く感じるようになってきた。そこで提案したいのは、地域毎にその地域専用の観測ネットワークを設立することである。その一例として、わたしたちの直近の活動を紹介しよう。ここ1年で(株)早川地震電磁気研究所が中心となり、関東直下型地震だけを狙う観測ネットワークを構築している。いろいろな周波数での電波観測の複合的なシステムを駆使するもので、科学的メカニズムの解明にもつながり、研究的にすこぶる興味深いものである。ひいては予知精度の向上に大きく貢献することが期待できる。ソフトウェア開発会社(株)テンダとの共同事業として立ち上げたウェブサイト「予知するアンテナ」(https://yochisuru-antenna.jp/)を是非一度ご覧いただきたい。原則週2回の配信で、緊急時には警告を出す。予知情報は月額500円(税抜き)で提供している。
(2) 第2の問題点は、従来の地震予知情報配信は一方的であるため、受け手側がその予測に如何に対応するかに苦慮することであった。そこで、(1)防災、(2)予知、(3)迅速な発災後処理を三位一体化することが必要だ。従来のBCP(事業継続計画)では(2)の予知が欠落していたが、かなりの精度にて予知情報配信が可能になった現在では、法人、企業にとって予知情報とそのソリューションも融合した事業が求められている。即ち、予測情報がある時のBCPを新たに考える段階に入ったと言える。幸いな事に地震の1週間前には予測が出せるため、この1週間に集中し地震までのタイムラインで何を順次備えるかと言う革新的BCP マニュアルを開発する時期にきているのではないだろうか。当然のことながら、このマニュアルには発災後の迅速な災害事後処理が含まれているのは言うまでもない。もともと危機管理は最悪の事態を想定して行うもので、よしんば地震が来なくても「来なくてよかったね」というリテラシーにすべきである。地震は自然現象で、どんなに精度向上をはかっても予測確率100%はありえず、外れを許容した地震予知でよいのではないだろうか。私の近著「直下型大地震 誰でも予知はできる 生き残るための戦略」(OROCO Planning社)では、災害リスクマネジメントについても詳しく書いている。一読されることをお勧めする。
早川正士(電気通信大学名誉教授)
参考文献
(1) M. Hayakawa 「Earthquake Prediction with Radio Techniques」
John Wiley & Sons (USA) 2015
(2) 早川正士「地震は予知できる」産経デジタル 2016年5月17日掲載
(3) 早川正士「直下型大地震 誰でも予知はできる 生き残るための戦略」
OROCO Planning社 2016年9月末 出版