▶ 2016年10月号 目次

大阪企業家ミュージアムの15年

七尾隆太


 「道修町」と書いた紙をかざしたスタッフが「何と読みますか?」。子どもたちに問いかける。「どうしゅうまち」といった答えに混じって、一人の男子生徒が「どしょうまち」と大きな声。スタッフは「正解です」と驚いて見せ、「大阪の道修町は江戸時代から薬種問屋が集まった地域で、いまでは多くの医薬品メーカーなどに発展し、わが国の医薬・化学の基礎を作った」と説明が続く。パネルやめくり資料、ゆかりの展示物などが理解の手助けになる。子どもたちは、長崎県島原市内の中学校の修学旅行の一行。大阪市内のビジネス街の一角にある「大阪企業家ミュージアム」(中央区本町、宮本又次郎館長)で先日出くわした一コマだ。
   このミュージアムには、大阪を舞台に活躍した企業家105人の足跡などを展示している。大阪商工会議所が120周年記念事業として2001年6月開館、ことし創立15周年を迎えた。来館者は累計約24万人。1企業の創業理念や社史、製品などを紹介する企業ミュージアム(または企業博物館)は全国に数多いが、地域の企業家を一堂に集めたミュージアムは例がない。
   昨年度は、NHK連続テレビ小説「朝が来た」の放送をきっかけに、実業家で大阪商工会議所の初代会頭(当時は大阪商法会議所と呼んだ)だった五代友厚の人気がはじけ、来館者が主婦など女性層にも広がって前年の5割増の2万5千人になった。
   館内をざっと案内しよう。
   主展示エリアのタイトルは「企業家たちのチャレンジとイノベーション」。各人の足跡を三つのブロックに分けて展示している。第1ブロック(産業基盤づくり、明治時代)は五代友厚はじめ、銀行を基盤に様々な基幹企業を設立した松本重太郎ら▽第2ブロック(消費社会の幕開け、明治末から第2次大戦前)は新薬開発に挑戦した武田長兵衛、私鉄の多角経営を確立した小林一三、国産洋酒を開発した鳥井信治郎ら▽第3ブロック(復興から繁栄へ、第2次大戦後)には電化ブームをリードした松下幸之助、インスタントラーメンを開発した安藤百福ら総勢105人。