▶ 2016年10月号 目次

はしか対策 予防接種を正しく理解して感染なくそう

木村良一


大阪府の関西国際空港で集団感染が起きるなど「はしか」の感染が続いている。国立感染症研究所によると、9月11日までに報告された患者数は計115人で、昨年の患者数の3倍を超える。
 9年前にも若者の間で大流行し、大学や高校が相次いで休校する騒ぎがあった。このとき事態を重くみた厚生労働省は、予防接種を強く呼びかけた。基本的にはしかは一度感染すると、再び感染はしない。体に終生免疫ができるからで、それゆえ免疫をつくるワクチンの効果は大きい。
 しかし、今回の感染者の増加である。感染した人は、きちんとワクチンを打っていなかったのだろう。どうしたらワクチンを有効に使ってはしかの感染をなくすことができるのだろうか。
 はしかの正体は麻疹ウイルスだ。感染者のせきやくしゃみによって放出されたこのウイルスに感染すると、10日前後の潜伏期間を経てかぜのような症状が出た後、全身に発疹が出る。肺炎や中耳炎を起したり、1000人中1人の割合で脳炎にかかり、このうち15%が死亡し、25%が脳性まひなどの脳障害を患う。大人になってから感染すると、症状は重い。特効薬はない。決して侮ってはならない感染症である。
 7月から8月にかけて関西国際空港で次々と感染が広がったことから分かるように、空気感染する麻疹ウイルスは非常に感染しやすい。感染力はインフルエンザウイルス以上だ。
 9年前の2007(平成19)年の流行では、次の2点が流行の原因に挙げられた。
 ひとつがはしかに限らず、すべての予防接種が1994(平成6)年に「義務」から任意の「勧奨」に切り替わり、学校での集団接種がなくなった。保護者が子供を病院に連れて行って接種するようになった。その結果、はしかのワクチンを接種していない子供が増え、10代から20代にはしかの感染が広がったというもの。もうひとつがはしかのワクチンの普及によって感染者が減って自然感染の機会が減り、1回のワクチンで得た免疫が増強されなくなったというものだ。