▶ 2016年11月号 目次

調査報道が落ちた罠~ 映画「ニュースの真相」~第三回綱町三田会ミニゼミ報告

下村恵梨子


「調査報道の失敗事例から考察するジャーナリズム~映画『ニュースの真相』を軸に~」のテーマで2016年9月28日、今年度第3回ミニゼミが、慶應義塾大学三田キャンパスで開かれた。映画『ニュースの真相』を鑑賞し、それを踏まえ、調査報道の在り方を中心に、研究所の担当教授と現役学生が、ジャーナリストと共に議論を交わした。今回は調査報道を扱ってから第3回目であり、これが最後の回、いわば集大成となる。いつに増して熱い議論が交わされた。

まず、冒頭に日本の調査報道の失敗例と、比較対象としてのアメリカの調査報道の失敗事例を学生が発表した。その際、調査報道の定義がやはり曖昧だとして、でっちあげと発表報道、キャンペーン報道との違いを認識する必要があった。調査報道の真骨頂は隠されたものを暴くというところにある。それは権力との対峙という、でっちあげなどとは異次元の恐ろしさを持つものだ。

それを踏まえて、次に、映画『ニュースの真相』にみる調査報道の在り方を考えた。この映画は、ブッシュの軍歴詐称事件におけるCBSの調査報道の仕方に問題があるとしている。具体的に言うと、証拠とするメモの信憑性をあまり疑わなかったこと、専門家に鑑定を依頼しなかったこと、情報源をしっかり調べなかったこと、上司がしっかりとメモを検証しなかったこと、軍の関係者からの見解を求めなかったことが挙げられる。しかし、これらだけでは極めて表面的な見解なのではないだろうか。なぜなら、このような状態に追い込まれた理由や、なぜ調査報道の失敗は起こるのかという背景を一般化できていないからだ。

先程、調査報道の失敗は、権力との対峙の結果、つまり外からの圧力によってのみ起こるとした。しかし、今回のミニゼミを通じてそれだけではないことに気付いた。それは内なるものが原因となって引き起こされるものもあるのではないかということだ。他社よりも速く特ダネをスクープしたいという焦りや功名心、積み上げたキャリアによる自己と周りの人達からの過度な信頼、油断も失敗要因になっていると思う。

権力はどこで罠を仕掛けているかわからない。この内なる要因が引き金となって、調査報道をして真相解明をしているつもりが、トラップが仕掛けられていることに気付かず、自ら墓穴を掘り、相手の思惑にどっぷりと浸かるという状況を生んでいるともいえるだろう。これはあまりにも調査報道の皮肉な現実である。実際、映画の中のCBSは真相を追っているつもりが、権力に追われているのだ。