▶ 2017年4月号 目次

ロンドン・テロを巡って-現地報道の変化を追う-

山本 信人


3月22日(水)
 15時すぎ。「民主主義の中枢がテロ攻撃の対象となった」。BBCニュースは、英国議会開催中のウエストミンスター議事堂が狙われたと伝えた。続いて、議会警備警官の死亡、ウエストミンスター橋で暴走車にひかれた民間人あり、と報道。
 18時すぎ。英国および民主主義に対するイスラム・テロとして報道にも熱がはいった。英国公共放送局BBCは警察発表の情報を忠実に流していた感があるのに対し、民間放送局ITVは積極的に独自取材をしながら新しい情報を報道していた。
 18時から20時にかけてのITVニュース。自社の記者・カメラマンのみならず、事件当時に現場に居合わせた市民や観光客が撮影した映像を存分に使用していた。血まみれで倒れている人、逃げまとう人びとの姿が記録されていた。ITVが招集した前テロ対策室関係者、政治家、ジャーナリストは、一様にイスラム・テロとして今回の行為を非難していた。ISISやアルカイダとの関係を示唆する者もいた。昨年7月14日に発生したニースでのテロと重ねて、ISISに影響を受けたローンウルフとする分析もあった。
 19時すぎ、速報(のち誤報と判明)。ITVの報道で容疑者の顔写真、その背景が伝えられた。容疑者は当局が監視下にあったイスラム過激派のイスラム伝道師。ジャマイカ移民の子(英国生まれ)でキリスト教徒であったが、1990年代にイスラム教へ改宗。05年のロンドン同時爆発テロ以降、テレビ画面に頻繁に登場していた。数年間は刑務所での生活を送った。
 22時すぎには、メイ首相がテロ攻撃を非難する声明を発表。ロンドン市民、英国市民はテロに屈せず、いつも通りの生活を送るようにと、呼びかけた。メイ首相らは、内閣府ブリーフィングルームAで危機対応の協議を重ねていた、という。
3月23日(木)
 朝5時からのBBCとITVの報道。前日の事件をテロとしながらも、イスラムという文字は消えた。警察発表で、容疑者は確定されているが、その詳細は不明となった。背後に控えるイスラム団体の存在への示唆もなくなった。6時すぎからは、バーミンガムではテロ対策部隊が6カ所を一斉捜索したと報道。9時すぎには、事件関連で7名が逮捕されたと一報があった。この時点での報道では国際テロとされていた。
 同時に、一般市民が撮影した映像はむやみに使用しないように、という政府からの呼びかけあり。テロ事件からイスラムの要素が排除され、映像の規制が始まった。情報源は警察発表に集中した感あり。警察の迅速な対応が徐々に明らかに。
 朝のITV情報番組「Good Morning Britain」。専門家の議論は、容疑者ではなく、政府のテロ対策やウエストミンスター議会警備のあり方に集中。