▶ 2017年4月号 目次

ソウル便り-大統領弾劾決定の前夜、そして その日-

山本 信人


 2017年3月11日夜、韓国・ソウル中心街にある光化門前の広場が埋め尽くされた。前日の昼、憲法裁判所が朴槿恵大統領の罷免判決をくだし、韓国史上初めて現職の大統領の弾劾が決まった。それを受けて、11日夜は光化門前広場でこの弾劾決定を祝う集会がおこなわれた。光化門広場にはステージが設置されており、集会に集まった市民はシュプレヒコールをあげるだけではなく、音楽があり、そして定番となった朴槿恵退陣要求の歌「これが国か」を合唱した。
 「これが国か」。「下野、下野、下野」ではじまるこの歌は、ユン・ミンソクが作詞・作曲した。朴槿恵退陣要求ソングとして知られているが、歌詞を見ると批判の矛先は他にもある。朴大統領の政商だった(崔)順実、前大統領の李明博、そしてセヌリ党に朝鮮日報も共犯者となっている。「犯罪者の天国 庶民は地獄」という歌詞に明記されているように、政治家、政党、政商化した財閥、主要メディアまでもが韓国庶民を食い物にし、私腹を肥やしているというのである。
 憲法裁判所の判決前夜の3月9日、私はメディアコムの同僚3人と光化門前広場へ向かった。午後6時ころには三々五々市民が集結しはじめていた。ステージ、音響設備は準備万端。韓国内外のメディアもすでに待機。デモ参加者用のWiFiサービス車列を挟んで、警戒にあたる警察・機動隊の車列は広場周囲の道路を覆っていた。不思議なことに緊張感はなく、反朴大統領デモでお馴染みになったLEDキャンドル売りやデモ用のビラ配りが盛んにおこなわれていた。
 午後8時過ぎには、広場から憲法裁判所前へ向かって行進をし、憲法裁判所前で集会となった。行進時には数百名ほどであった人並みは、憲法裁判所前では数千と膨らんでいった。子ども連れの親子、車椅子の男性、老若男女。零下にならんかという寒空の下、「これが国か」の大合唱が続いた。集会場になった憲法裁判所前の幹線道路は封鎖され、遠巻きに警察官が集会の模様を眺めていた。