▶ 2017年4月号 目次

受動喫煙論議-全面禁煙に勝る対策なし-

木村 良一


 「百害あって一利なし」と分かっていながらどうしてすっきりと解決できないのだろうか。今回はたばこの話である。
 2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、厚生労働省が他人の吸うたばこの煙を吸い込む受動喫煙を防ぐための法案(健康増進法の改正案)をまとめた。焦点の飲食店は原則店内を禁煙にしたが、喫煙専用室の設置を許可、さらにバーやスナックなどの小さな飲食店は例外的に喫煙を認めた。
 違反者には罰則を設けたものの、昨年10月の厚労省のたたき台から後退し、全面禁煙が主流の海外と比較してかなり緩い。世界最低レベルの日本の受動喫煙対策は変わらない。医療関係者から「もっと規制を強めるべきだ」「厚労省は生ぬるい」と全面禁煙を求める声が出ている。その一方で飲食店業界の団体や自民党のたばこ議員連盟からは「店の売り上げが落ちる」「喫煙をたのしむことも国民の権利」と反発の声が上がった。
 たばこをめぐっては、大蔵省(現・財務省)と厚生省(現・厚労省)が対立してきた経緯がある。大蔵省はたばこの売り上げを伸ばして税金を取りたい。しかし厚生省は公衆衛生の観点から喫煙を減らして国民の健康を守りたい。同じ政府でも置かれた立場、立場でその主張が違っていくるから妙な話である。
 同じ受動喫煙対策について書かれた新聞の社説を読み比べても、その論調には違いがある。
 たとえば2月20日付の朝日新聞の社説は「命を守る視点を第1に」との見出しを立て「規制のあり方は明快・単純であることが望ましい」「公共の屋内スペースは全面禁煙とすべきだ」と訴える。
 朝日の社説は「日本も加盟するたばこ規制枠組み条約の指針は、屋内全面禁煙を唯一の解決策としている」「たばこの煙に含まれる物質の害は、遺伝子レベルで明らかになってきている」「受動喫煙によって国内では毎年約1万5千人もの非喫煙者が亡くなると、厚労省の研究班は推計。交通事故による死者数約6千人を大きく上回る」と強調する。
 そのうえで「全面禁煙ではなく、分煙の徹底と喫煙室の設置で対処すればいいとの意見も根強い」「その場合、たばこを吸わない従業員や相客の健康をどうやって守るのか。煙が漏れず、換気機能の高い喫煙室を設けることができるのか。