▶ 2017年4月号 目次

著作紹介 写真集「国鉄蒸気機関車 最終章」

對馬 好一


 70歳代の某女流画家から「本を拝見して感動した。貴重な日本の産業史の資料となる写真集だ。デジタルカメラがない時代にどのような機材を使って、どんなフィルムで撮影したのかとても興味を持った」というお電話を頂いた。その一方で、50歳代前半の人たちに見せても、「あー、そうですか。すごいですね」とそっけない。写真集『国鉄蒸気機関車 最終章』(對馬好一・橋本一朗著、洋泉社)に対する反響は世代ごとにまるで違った。
 今、我が国で鉄道ファンが急増している。北海道・留萌本線の留萌-増毛間が廃線になると言えば、全国から普段気動車に乗ったことがないような老若男女が短い線路に駆けつけた。女優の早見優さんと松本伊代さんが京都府・山陰本線の線路上で撮った記念写真がSNSにアップされ、鉄道営業法違反で書類送検されると、その近くの踏切が観光名所になった。東京周辺の私鉄やJR沿線では、ホーム端から走行中の電車を撮影する若者の姿が各駅で見られる。こうした人たちが蒸気機関車の勇姿を見たがっているのかと思っていたが、案外そうでもないらしい。書店の店員さんに聞くと、「電気機関車や特急電車、新幹線電車の写真集はよく売れるが、蒸気機関車はそれほどでもない」という。
 「なぜだろう?」と考えていたところ、平成29年3月12日付産経新聞読書欄に、前原誠司元外相による本書の書評が掲載された。その書き出しには「動態保存を除き、蒸気機関車牽引の最終旅客列車は昭和50年12月14日、貨物列車が同月24日だった」とあった。
(産経新聞読書欄Web掲載記事リンク)
現在54歳の前原さん自身が13歳の時のことだ。勇壮に煙を吐いて列車を牽く黒い鉄の塊の躍動に、彼より若い世代の人達は接したことがないのだろう。書評の見出しは「永遠の憧れへのレクイエム」。蒸気機関車は、歴史上のエポックとなってしまっている。
 昨年3月末、「満鉄会情報センター」がひっそりと解散した。戦前の日本が「ユーラシア大陸を横断し、東京-ロンドン間を高速鉄道で結ぼう」と満州国(現・中国東北部)内に建設した南満州鉄道(満鉄)にかかわった人たちのOB会「満鉄会」の終焉だった。戦後70年を経た今日、会員数が激減し、その使命を終え歴史を閉じたのだ。