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「赤ちゃんポスト10年」社会でもっと議論を深めたい

木村 良一


 親が育てられない子供を匿名で受け入れる「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」を、慈恵病院(熊本市)が全国で初めて開設して10年が過ぎた。昨年3月までの9年間に125人の命が託され、多くの命が救われた。
 慈恵病院の蓮田太二理事長は5月9日、記者会見して「赤ちゃんの命を守るという点で役目を果たせた」と語った。
 しかし開設当初から「命を救う観点からやむを得ない」との肯定の意見がある一方で、「捨て子を助長する」という反対の声もあり、その賛否両論はいまも変わらない。
 当時、熊本市が「許可しない合理的な理由はない」と苦渋の決断で設置を認めた経緯もある。今年2月には神戸市の助産院が2例目の赤ちゃんポストの新設を目指すと発表したが、常駐の医師の確保が難しく、一端見送られた。
 2007(平成19)年5月16日付の産経新聞で私は論説委員として「赤ちゃんポスト 善意の仕組みへ知恵絞れ」という見出しを付け、「3歳ぐらいの男児が、ポストの運用が始まった5月10日の午後3時ごろに預けられた。初めて預けられた子供だ」「これをきっかけに赤ちゃんポストの持つ意味を考えたい。社会全体が知恵を絞ることが大切だからである」という趣旨の社説を書いた。
 このときの社説では「男児はさぞかし寂しい思いをしていることだろう。父親や母親には早く名乗り出てほしい」と呼びかけた。それととともに「病院は『赤ちゃんポストの一番の目的は預けてもらうことではなく、育児の悩みを相談してもたうこと』と強調し、ポストの扉の脇に専門スタッフとつながるインターホンを備え付け、中の保育器にも『気持ちが変わったら連絡してほしい』と書かれた手紙を置いた」と病院が相談支援に力を注いでいる点を強調した。
 さらに翌2008年(平成20)年5月13日付社説では「設置から1年が過ぎた。これまで病院も行政機関も預け入れの有無さえ明らかにしていないが、赤ちゃんはほぼ毎月置かれ、少なくとも計16人が預けられたようである。熊本市は近く運用状況の一部を公開する考えだというが、社会が赤ちゃんポストの是非を考えるための情報は必要だ。その赤ちゃんの福祉や親のプライバシーに差し障りのない範囲でデータを公表してほしい」と訴えた。