▶ 2017年6月号 目次

ニュース国際発信の日々 ~KBS校閲委員の730日~

羽太 宣博


広がる「竹島上陸」の波紋
~国益とジャーナリズムと国益
 
                              KBSに通い始めて3日目の朝だった。本館玄関の左手にある、大きなモニター画面が目に留まった。寄せては返す白波が岩に砕け、海鳥が飛び交う島は、あの見覚えのある竹島(韓国でいう独島)だった。ある時は晴れ、またある時は雨に煙る。時間、日ごとに変わる光景に、竹島の中継生映像だと分かった。地下鉄の安国駅や金浦空港駅の通路には、竹島のジオラマも設置されていることを知った。1982年生まれのK-POP「独島は我が領土」という歌がある。その一節「誰が何と言い張ろうとも独島は我らが領土」は、韓国の立場そのものだ。子どもから大人まで、「独島は我が領土(ドクトヌン ウリタン)」と歌い信じ込む国情に触れると、竹島は韓国統合の象徴に見えてくる。韓国で向き合う竹島問題からは、日本にいては決して感じえない「執念」を想起し、もはや信仰の域とさえ思えてくる。一方、日本政府は9月10日、尖閣諸島を国有化する方針を決め、中国各地に激しい反日デモが拡がった。暴徒化したデモに、日本の反中ナショナリズムと領土意識が高揚し、竹島をめぐる反韓意識をさらに強めたことも見逃すわけにはいかない。
 竹島関連のニュースは9月以降も相次ぐ。悪化する日韓関係を伝えつつ、また煽る。ニュースは、当初の抗議や批判の応酬から、情報戦や経済の葛藤へと拡大し、さらに文化交流などにも影響を来すなど、日韓関係すべての分野へと波及していった。このうち、情報戦は広報合戦として火花を散らした。9月11日、日本政府は「竹島は日本固有の領土」とする新聞広告を国内のおよそ70の新聞に掲載し、韓国のメディアはこれを一斉に伝えた。中央日報は12日付の社説で、日本が危険千万な賭けに出たと伝え、「独島は日本の領土という話にならない広告を掲載しはじめた。これは韓国を刺激する明白な挑発だ」と論じた。私が校閲したKBSニュースは、「歴史的な後退として強く非難する」との、韓国当局者の発言をそのまま伝えた。その後、日韓双方とも動画を使ったインターネット上の情報戦へとエスカレートしていく。2013年10月14日、韓国外務省はそのホームページに「大韓民国 独島」と題する12分の動画を公開し、島の領有権を主張する。これに対し、日本の外務省は16日、「みなさん、竹島をご存知ですか?」と題する動画を公開。韓国メディアは「とんでもない映像」と表現し、韓国外務省は直ちに削除を求めた。一方、韓国の動画には、NHKのドラマ「坂の上の雲」の映像が無断で使われていたことが判明する。いったん削除されたあと、翌年元日に修正版が公開された。