▶ 2017年7月号 目次

ロンドンレポート  英国総選挙とEU離脱交渉

山腰 修三


 2017年6月19日、英国政府はEUからの離脱のための協議を開始した。周知のとおり、英国政府の戦略は協議の開始前に大幅な修正を余儀なくされている。与党保守党が自ら打って出た総選挙で「大敗」を喫してしまったからである。
 投票日の翌日の新聞各紙はメイ首相の思惑が大きく外れたことを見出しで伝えた。The Times「メイの大博打の失敗」、The Daily Telegraph「メイの賭け、失敗に終わる」、大衆紙The Sunに至っては「Mayhem(メイの引き起こした大騒乱)」と書き立てた。他方でリベラル系のThe Guardianは「コービンが保守党に一撃」、Daily Mirrorも親指を立てて満面の笑みのコービン労働党党首の写真を大きく掲載した。
 あたかも労働党が大勝したかのような紙面だが、純粋な結果としては、与党保守党の勝利である。最終的な結果は総議席数650に対して保守党が318議席、労働党が262議席であった。とはいえ、選挙前に保守党は単独過半数の331議席を持っていた。そこからさらに議席を大幅に積み増す当初の思惑が外れ、過半数割れにまで落ち込んだ結果はやはり「惨敗」と評価すべきであろう。
 4月に議会の解散に打って出たメイ首相の判断に異を唱える声はほとんど聞かれなかった。実際に、5月の地方選で保守党は文字通り地滑り的な勝利を得た。続く総選挙に向けた保守党の勢いに弾みがついたかのように見えた。一方、労働党は地方選で壊滅的な状況であった。党首であるコービンの指導力に党内から疑問の声が強くなった。この地方選の結果を受けたBBCの街頭インタビューで労働党から鞍替えしたという初老の男性が「コービンは個人的には良いやつだと思うけど、党首としての魅力がない」と答えていたことが印象に残った。
 状況はわずか一か月で急転した。保守党の敗北の原因についてはすでにさまざまな要因が指摘されている。選挙戦でマニフェストに掲げた社会保障制度の改革が大きく批判され、撤回したこと、メイ首相が他党との論戦の場を避け続け、イメージを悪化させたこと、そして選挙期間中にテロが二度発生し、メイ首相が内務大臣時代に警察官の人数を大幅にカットしたことが批判された。それに加えてコービン労働党の再配分を強調したマニフェストに多くの人々が魅力を感じたことも事実であろう。