▶ 2017年8月号 目次

ニュース国際発信の日々 ~KBS校閲委員の730日~

羽太 宣博 


国力・プライドとニュース国際発信 

                             2012年10月19日、韓国が国連安保理・非常任理事国に選出された。16年ぶりのことである。ニュースの収録を終えて帰り支度を始めた私に、KBSワールドラジオ日本語班のチーフがどこか冷たい視線を向けていた。「韓国のこと、少し軽んじていませんか?」とでも言いたげな表情だった。韓国の非常任理事国選出のニュースをトップで伝えなかった私に納得できなかったらしい。「きょうのニュースオーダーのことで、ちょっといいですか・・・」と真顔で問いかけてきた。この日、日本語班のニュースは合わせて13本。トップ項目の候補がいくつもあった。日本向けに発信する、15分のニュースオーダーを組むのは何とも悩ましかった。その日のオーダーは日記に記されている。トップニュースは朝鮮半島情勢だった。南北経済交流の一つ、開城(ケソン)工業団地で操業する韓国企業20社に対して、北朝鮮が自ら推計した利益をもとに高額の税金を追加で課し、支払わなければ団地から製品の持ち出しを禁止するとのニュースだ。次いで、北朝鮮の核開発問題を話し合う6か国協議のアメリカ首席代表、デービース氏が韓国を訪れ、「北朝鮮の挑発は大きな逆効果を生む」と発言したニュース。韓国が安保理の非常任理事国に選出されたニュースは3番目となった。さらに、サムソン電子のタブレット端末がアップルのデザイン特許を侵害したかどうかをめぐるイギリスの裁判で、被告のサムソンが控訴審でも勝訴したニュースと続けた。

 チーフに聞けば、韓国が非常任理事国に選出されたのは、国際社会が韓国を認めた証であり、当然トップニュースと思ったという。「非常任理事国になれたのは、国際社会が韓国の力を評価したからですよね。韓国は国連での発言力や存在感を高めることができ、大きな意味があると思うんです」と主張するチーフ。「すでに前触れ原稿が2本出ていて、ニュースバリューは緊張する南北関係の方に…」と応じる私。また、日本が非常任理事国に10回選出されていることにも触れ、「国連外交の舞台で存在感を増し、いち早く情報収集ができるようになるかもしれない。でも、国際社会が評価するのは非常任理事国に選出されたことではないと思う。世界の平和と安全、とりわけ北朝鮮の核・ミサイル開発問題に韓国がどう貢献するかじゃないかなあ。問題はこれからだよ」と説く。着任からわずか2か月足らずで、その間柄は本音を言い合うほど親しくもない。お互い深く突っ込むこともなく、論争は30分ほどで終わった。
 「国際社会の評価」や「韓国の地位」に殊更こだわる韓国の国情は、メディアの世界によく表れる。2006年10月、国連事務総長を2期勤めた潘基文(パン・ギムン)氏が内定した際の報道ぶりが好例だ。