▶ 2017年9月号 目次

東南アジアにISISの拠点?

山本 信人


マラウィ事件
 2017年5月23日、過激派組織ISISに忠誠を誓う武装勢力がフィリピン南部ミンダナオ島のマラウィ市を占拠した。事案の発生直後からドゥテルテ大統領はミンダナオに戒厳令を敷いた。爾来3ヶ月以上が経過している(17年8月)現在も、フィリピン軍と武装勢力とのにらみ合いが続いている。
 軍の空爆や爆撃による人口20万人のマラウィ市はゴーストタウンと化した。これまでに武装勢力側で300人以上、治安部隊80人以上、市民50人弱、計400人以上が死亡した。当局によると、いまだに100人以上の戦闘員が市街地の商業地区に立てこもり、100人以上の市民を人質にとっている。
マラウィを占拠している武装勢力の構成は特徴的である。ミンダナオの武装勢力といえば地元の反政府勢力が主体であったが、今回の事件では外国の武装の戦闘員が参加している。隣国インドネシアやマレーシアからの戦闘員だけではなく、イエメン、チェチェン出身者も含まれている。後者は、17年に入ってイラクやシリアで足場を失いつつあるISISの戦闘員で、 8000キロ以上も離れた東南アジアへ移動してきたことになる。この事実から、ISISが東南アジアへ進出してきているとの指摘もある。

東南アジアとISIS
 ISISは2013年にイラクとシリアで組織され、14年6月にはシリア北東部のラッカを「首都」とするカリフ「国家」の樹立を宣言した。ISISはイスラム法による統治と超領域的な国家建設を謳い、インターネットを介して宣伝した結果、世界各地で西洋の「普遍的価値」に不満を抱くイスラム勢力に支持された。東南アジア各地でも13年後半以降、それまではアルカイダやジェマ・イスラミヤとの共闘を謳っていたイスラム系過激派組織が堰を切ったようにISISへと鞍替えするようになった。インドネシアでは29のイスラム系過激派組織、フィリピンで16組織、マレーシアでも12組織と、東南アジア諸国で計60以上のイスラム系過激派組織がISISへの忠誠を誓うにいたった。
 東南アジアでISISの名が轟くようになったのは、16年1月インドネシア・ジャカルタでのテロ事件であった。その5ヶ月後の6月には、マレーシア・プチョンのナイトクラブで手榴弾テロ事件が発生した。このほかにもフィリピンでは無数のテロ未遂および失敗の事案がある。

ウイグル人テロ事案
 ジャカルタ事件後、インドネシア対テロ特殊部隊が実行した掃討作戦の結果、数名の外国人が拘束され、なかには銃撃戦の末に死亡した者もいた。この場合の外国人はウイグル人であり、スラウェシ島中部ポソのジャングルにて訓練を受けた戦闘員であったことが判明している。