▶ 2017年10月号 目次

<シネマ・エッセー>ダンケルク

磯貝 喜兵衛


戦争には 決断
敗北には 闘魂
勝利には 寛仁
平和には 善意

 ウインストン・チャーチルの「第二次大戦回顧録」(毎日新聞刊)の冒頭にある彼の言葉です。大戦初期の敗北によって、英仏海峡のダンケルクに追い詰められたイギリス軍、フランス軍33万人を撤退させたチャーチル首相の<決断>。そして敗北に対して掻き立てられたた<闘魂>・・・ダンケルクの撤退作戦こそが、4年後のノルマンディ上陸作戦など、ドイツ軍に対する連合軍の勝利への布石となったのです。

 1940年5月,大戦初頭に怒涛の進撃を続けたドイツ軍は、英仏連合軍をドーバー海峡のダンケルクに追い詰めます。チャーチルは駆逐艦、輸送船のほかに漁船、民間船などあらゆる種類の船舶を動員して、海峡を隔てたイギリス本国(グレートブリテン島)に運ばせるのですが、映画は一人の若いイギリス兵の絶望的な脱出劇を中心に、これを阻もうとするドイツ空軍とイギリス軍戦闘機の空中戦、親子3人で小型船を操って、海に投げ出されて油まみれになった英国兵たちを必死に救出する勇敢な姿を追い続けます。

 救出作戦について、チャーチルはこう書いています。 『ロンドンのドックにある客船の救命艇、テムズ川の曳き船、釣り舟、ヨット、伝馬船、遊覧船などあらゆる種類のものが御用をつとめることになった。(中略)無数の小舟が潮のように海に向かって出発した。またオールを漕いでダンケルクの同胞の救出に出発するものもあった。』