▶ 2017年11月号 目次

<シネマ・エッセー> 否定と肯定

磯貝 喜兵衛


 映画の試写会に、監督や俳優が出演して作品について語ることはありますが、劇映画の<登場人物>が映画の試写前にスピーチするのは、珍しいのではないでしょうか。日本記者クラブで行われた『否定と肯定』の試写会には、この映画のヒロイン、米エモリー大教授、デボラ・E・リップシュタットさん(70)が来日して、実際の裁判と作品について語ってくれました。
「私たちは歴史的な事実(Fact)と意見(Opinion)との違い、さらに事実と嘘(Lie)との違いを厳しく区別し、常に真実を追求しなければなりません。」と冒頭に述べ、どれほど辛抱強く「事実」と「証拠」を積み上げ、「嘘」を排除したかについて、当事者の一人として、熱く語りました。
リップシュタットさんはアメリカ・ジョージア州アトランタにあるエモリー大学で歴史を教えるユダヤ人教授。イギリスの出版社から出た彼女の著書「ホロコーストの真実」について、ナチス・ドイツのユダヤ人大量虐殺は無かったと主張するイギリス人歴史家、デイヴィッド・アーヴィングが、リップシュタットさんを名誉毀損でイギリスの法廷に訴えたことから、2000年にこの裁判劇がスタートします。
イギリスの法廷では、訴えられた側に、自分の”無罪”を立証する責任があり、 リップシュタットさんはこの裁判に勝つために、裁判費用の募金運動を始めると共に、ロンドンで強力な弁護団を組織して法廷闘争にのぞみます。