▶ 2017年12月号 目次

二期目に入る?黒田日銀-待ち受けるリスク-

陸井 叡


  先月(11月)末日、 東京・銀座のとあるビル13階の一室。元日銀副総裁と経済ジャーナリスト数人による定例の勉強会が開催されていた。
 元日銀副総裁が用意した資料が机の上に置かれたが、この日は資料無しの議論から始まった。来年2018年4月任期を迎える黒田東彦日銀総裁の後任人事をめぐる動きだった。
 安倍首相が既に国会で「黒田総裁を信頼している」と述べている事。財務省、日銀には黒田氏が始めた異次元緩和策が道半ばであり、責任を果たして貰うには留任が相応しいとの意見が根強い事が紹介された。一方、財務省出身で現スイス大使の本田悦朗氏が度々帰国、自身を「日銀総裁に」と猟官運動をしている情報も示されたが、所詮は当て馬という事で黒田氏留任説が大勢だった。
 さて次に勉強会は、黒田氏が二期目に入った場合のリスクは何かという議論に移った。リスクは2つ。まず「2%インフレは実現できるか?」そして、異次元緩和(黒田バズーカ)に「出口(終り)はあるのか?」という事だった。
 2013年春、安倍首相はデフレ脱却を掲げて、ダークホースだった黒田氏を日銀総裁に抜擢した。黒田氏は4月、総裁に就任すると「2年で2%」というインフレ目標を表明、「金融市場に大量に資金を提供すれば景気は良くなってインフレがやって来る」と主張した。だが、資金を"ばら撒け"ども"ばら撒け"ども、今なお消費者物価は0%台が続き、2%延期宣言は遂に6回に達した。
 黒田氏は先月(11月)名古屋市で講演。「企業は人手不足に効率化などで対応し、賃上げや商品値上げを抑えているが、こうした事は続かない。(物価を)押し上げる力は徐々に強まってきている」と述べた。
 しかし、勉強会では幾つかの事例を元に、例えば、サービス業ではパートの主婦や退職後の中高年者を正社員より安い賃金で雇う動きが広がっている事。更に、多くの職場でデジタル化が進んで寧ろ人余りの現象さえ見られるなど構造的な変化が進み「2%インフレ」の実現は今後も難しいとの意見が大勢だった。